こんにちは。相続・不動産コンサルタントの渡邉卓哉です。「介護費用って、実際いくらかかるの?」「医療費の負担を軽くする制度があると聞いたけど、よく分からない…」「年金や税金、どこに相談すればいいの?」シニア世代になると、"介護・医療・お金"に関する悩みは一気に増えていきます。一方で、制度が複雑で分かりづらく、「知らなかったために損をしていた」というケースも少なくありません。今回は、介護・医療・税金・年金について、“制度を横断して考える大切さ”をテーマにお話しします。本シリーズでは、全4回にわたり、「第1回:介護・医療・税金の全体像」「第2回:介護保険・医療保険の基本」「第3回:年金と税金のしくみ」「第4回:介護・医療・節税対策」について、できるだけ分かりやすくお伝えしていきます。第1回目の今回は、「そもそも、介護・医療・税金の悩みはなぜ複雑なのか」という土台となる部分を一緒に整理していきましょう。■介護・医療・税金の悩みは「別々」ではないシニア世代のお金の悩みというと、「老後資金が足りるか」「年金はいくらもらえるか」というイメージが強いかもしれません。しかし実際の相談現場では、介護・医療・税金の問題が複雑に絡み合っているケースがとても多いのです。【介護費用と医療費は同時に発生することがある】親御さんが高齢になってくると、医療費と介護費用が同時にかかり始めることがあります。たとえば、入院をきっかけに要介護状態になり、退院後はデイサービスや訪問介護を利用しながら、定期的な通院も続けるというケースは珍しくありません。厚生労働省の調査によると、介護が必要になった場合の平均的な在宅介護費用は月5万円前後とされていますが、施設に入居するとなれば月15〜20万円以上かかることも珍しくありません。さらにそこに医療費が重なれば、家計への影響は相当なものになります。「医療費は保険でカバーできる」「介護費は別の話」と切り分けて考えていると、実際に費用が発生したときに大きなギャップを感じることになります。介護と医療は一体として準備しておくことが、シニア世代のお金の備えでは非常に重要です。【年金だけでは不安を感じる人が増えている】「年金をもらえれば老後は安心」という感覚は、今の50〜60代にはあまり通用しなくなっています。公的年金の平均受給額は、夫婦世帯でも月20〜22万円程度。そこから介護費用・医療費・生活費・住居費が引かれると、余裕は決して大きくありません。さらに、物価上昇が続く昨今では実質的な購買力が下がるという懸念もあります。年金収入だけを前提にした老後設計は、今や非常にリスクが高いといえます。だからこそ、「節税」や「制度の活用」によって支出を適正化することが、収入を増やすことと同じくらい大切な視点になってくるのです。【相続対策だけでは解決できない問題もある】相続コンサルタントとして多くのご家族と関わる中で気づいたことがあります。それは、「財産の引き継ぎ方」だけを考えていても、介護や医療のお金の問題は解決できないということです。相続対策として不動産や金融資産の整理をするご家族は増えていますが、「その前の段階」、つまり本人が生きている間にかかる介護費用・医療費の備えが抜け落ちているケースが非常に多いのです。財産を上手に残すことと、生きている間のお金を上手に使うこと、この両方をセットで考えることが、真の意味での「老後の備え」だと感じています。■「知らなかった…」を防ぐために知っておきたい3つのこと介護・医療・税金の制度は、それぞれ別々に存在しているように見えて、実は密接につながっています。ここでは、シニア世代やそのご家族が特に押さえておきたい、 “知っているかどうか”で将来の負担が大きく変わる重要なポイントを3つご紹介します。【非課税世帯の軽減措置とは】住民税が非課税の世帯(いわゆる「非課税世帯」)には、介護保険サービスの自己負担額や医療費の上限額が大幅に軽減される制度があります。これは収入が一定以下の方を対象にした制度で、要件を満たせば施設の食費・居住費の負担が下がる「補足給付(特定入所者介護サービス費)」なども受けられます。ところが、この軽減措置は「申請しないと受けられない」ものがほとんどです。制度として存在していても、本人や家族が知らなければ利用できません。「知らなかった」というだけで、本来払わなくて良かった費用を何年も払い続けてしまうケースが実際に起きているのです。【障がい者控除・寡婦控除などの税制優遇】要介護認定を受けている方は、一定の条件を満たせば「障がい者控除」を受けられる場合があります。障がい者手帳を持っていなくても、市区町村が発行する「障がい者控除対象者認定書」を取得することで、所得税・住民税の控除が受けられる制度です。また、離婚や死別によってひとり親や寡婦の状態にある方も、寡婦控除・ひとり親控除の対象になることがあります。これらの控除は、税金を減らすだけでなく、非課税世帯の認定に影響することもあるため、連鎖的に様々な軽減措置に関わってくる非常に重要な制度です。「自分には関係ない」と思っていた方でも、親御さんが該当するケースや、ご自身が気づいていなかったケースがあるかもしれません。【健康保険の扶養と税制上の扶養の違い】「扶養に入っている」という言葉は日常的に使われますが、実は「健康保険上の扶養」と「税制上の扶養」はまったく別の制度です。この違いを理解していないと、せっかく使えるはずの控除を見逃してしまうことがあります。健康保険の扶養(被扶養者)は、収入が年間130万円未満などの基準で判断されます。一方、税制上の扶養控除は年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入なら123万円以下)が基準です。つまり、健康保険の扶養には入っていないけれど、税制上の扶養控除は使えるというケースがあるのです。特に、離れて暮らす親御さんを「扶養控除」の対象にできるかどうかは、見落とされがちなポイントです。仕送りをしている場合など、一定の条件を満たせば扶養控除が適用でき、所得税・住民税が軽減される可能性があります。■「知らなかった」で損をしているケースもある制度を知らないまま過ごしていると、本来受け取れたはずのお金が戻ってこないまま時効を迎えてしまうことがあります。これは決して他人事ではなく、意外と身近なところで起きていることです。【税金は5年、保険料は2年の還付期間がある】過去に払いすぎた税金は、原則として5年以内であれば還付申告によって取り戻すことができます。また、健康保険料や介護保険料についても、過払いがあった場合は2年以内であれば還付を受けられる制度があります。つまり、今この瞬間に制度を知って適切に申請すれば、過去にさかのぼって取り戻せるお金がある可能性があるということです。もちろん、全員が該当するわけではありませんが、「自分は関係ないだろう」と思い込んで確認すらしていない方は、一度チェックしてみる価値があります。【制度が複雑で分かりづらい理由】介護・医療・税金に関する制度が分かりにくい理由のひとつは、制度ごとに管轄の省庁が異なるからです。介護保険は厚生労働省、税金は財務省・国税庁、健康保険は加入している保険者(会社の健保組合や協会けんぽ、市区町村など)と、それぞれが別の組織によって運営されています。そのため、「どこに聞けばいいのか分からない」「聞いたとしても、他の制度との関連まで教えてもらえない」という状況が生まれやすいのです。制度を横断して総合的にアドバイスしてくれる窓口が少ないことが、知識格差を生んでいる大きな要因のひとつといえます。【市役所窓口が分かれていることで起きる問題】市役所に相談に行っても、年金・税金・健康保険・介護保険と窓口が分かれているため、「自分が本当に受けられる制度の全体像」を一度に教えてもらえることは、ほとんどありません。それぞれの窓口の担当者は自分の担当範囲については丁寧に教えてくれますが、「他の制度と組み合わせるとこんな軽減が受けられる」という横断的な判断は、なかなか難しいのが現実です。たとえば、障がい者控除を受けることで非課税世帯の認定が変わり、それが介護保険の自己負担額にも影響するといったケースは、複数の窓口をまたいだ知識がないと気づきにくいものです。■相談現場から気づいたこと相続・不動産コンサルタントとして多くのご相談をいただく中で、介護や医療のお金の問題が「相続の前段階」として大きく影響していることを痛感してきました。だからこそ、この情報を発信することが大切だと感じています。【相続相談の現場で感じた"介護と医療の現実"】相続の相談に来られるご家族の多くは、「親の財産をどう引き継ぐか」というテーマで来られます。しかし話を深く聞いていくと、「介護にこんなにお金がかかるとは思っていなかった」「医療費で貯金が思ったより減ってしまった」という声が多く聞かれます。財産が残っていれば相続の問題になりますが、生きている間の介護・医療費で財産が大きく目減りするケースも珍しくありません。だからこそ、相続対策と同じくらい、あるいはそれ以上に、「今からの介護・医療費の備えと制度活用」が重要なのです。【自己判断では難しいケースが増えている】制度は毎年のように改正されており、自分で調べてもすぐに情報が古くなってしまうことがあります。また、「自分は当てはまらない」と思い込んでいても、実際に専門家にチェックしてもらったら対象だったというケースも少なくありません。特に、障がい者控除や扶養控除、非課税世帯の軽減措置などは、条件が複雑なため、自己判断で「該当しない」と結論づけてしまうのは非常にもったいない話です。少し専門家の目を借りるだけで、大きな差が出ることがあります。【「もっと早く知っていれば…」を減らしたい】相談現場で何度も聞いてきた言葉があります。それが「もっと早く知っていれば…」という一言です。制度を知っていれば受けられた軽減措置、申請できた還付、使えた控除——それらを知らないまま時間が過ぎてしまっていたケースを目の当たりにするたびに、「この情報を、もっと多くの方に届けなければ」という思いが強くなります。このシリーズが、そのきっかけのひとつになれば嬉しいです。次回は、「介護保険・医療保険のしくみと賢い使い方」として、公的保険でどこまでカバーできるのか、自己負担をどう減らすのかを具体的にお伝えします。ぜひ続けてご覧ください。