こんにちは。相続・不動産コンサルタントの渡邉卓哉です。「「制度の話は分かった。でも、自分の場合は何から始めればいいの?」これまで3回にわたり、介護・医療・税金・年金のしくみをお伝えしてきました。最終回の今回は「実際の場面でどう組み合わせて使うか」という視点でまとめていきます。具体的なモデルケースを通じて、「自分にも当てはまるかも」と感じながら読んでいただければ嬉しいです。■ケース①「親の介護が始まったAさん(57歳・会社員)」状況:父親が脳梗塞で入院→要介護2の認定。母親は後期高齢者医療制度に加入中。Aさんは離れて暮らし、毎月仕送りをしている。【①介護サービス費の自己負担を減らす】父親が市区町村民税非課税世帯に該当する場合、「高額介護サービス費」の上限は月2万4,600円(世帯合算)。月5万円分のサービスを使っても、超過分は申請で戻ってきます。ショートステイの食費・居住費も「負担限度額認定」を取得すれば軽減対象になります。【②父親の障害者控除をAさんの確定申告で使う】要介護2の認定を受けている父親は、市区町村から「障害者控除対象者認定書」を取得すれば、Aさんの確定申告で障害者控除(27万円)を申告できます。Aさんの所得税率が20%であれば、年間約5万4,000円の節税効果が生まれます。【③父母の扶養控除で税負担を下げる】仕送りをしている父母の合計所得が58万円以下(年金収入のみなら概ね211万円以下が目安)であれば、それぞれを扶養控除の対象にできます。父母が70歳以上で同居でない場合、1人につき48万円の「老人扶養控除」が適用。2人分で96万円の控除になります。【④家族全員の医療費をまとめて申告する】入院費・通院費・訪問看護費など、年間を通じると10万円を超えるケースも多いです。おむつ代も医師の証明があれば対象。家族全員分をまとめて申告することで還付を受けられる可能性があります。【 まとめると…】制度を知らないままでいたAさんは、障害者控除も扶養控除も申告できておらず、年間で数十万円単位の控除を見逃していた可能性があります。「忙しくて確定申告まで手が回らない」という方でも、還付申告は5年間さかのぼって申請できます。■ケース②「65歳で定年退職したBさん(夫婦2人暮らし)」状況:夫65歳・妻63歳(専業主婦)。夫の年金収入は年間約200万円、妻は国民年金のみで年間60万円程度。貯蓄2,000万円ほどで当面は年金で生活できる見込み。【①住民税非課税世帯かどうかを確認する】夫の年金収入200万円から公的年金等控除(110万円)を引くと雑所得は90万円。さらに基礎控除などを差し引くと課税所得はわずかになります。妻も収入が少ないため、夫婦そろって住民税非課税世帯に該当する可能性があります。非課税世帯になると、医療費の高額療養費の自己負担上限が下がり、介護保険の自己負担も軽減されます。【②国民健康保険料の軽減を見落とさない】夫が退職して被用者保険を脱退すると、妻は国民健康保険に加入します。前年の所得状況によっては保険料の「法定軽減(7割・5割・2割)」が自動適用されるケースもありますが、申告漏れがあると適用されないことも。市区町村の窓口で確認するのが確実です。【③配偶者控除を使って税負担を減らす】妻の年間合計所得が58万円以下であれば、夫の確定申告で配偶者控除(38万円)を申告できます。妻が70歳以上になると「老人控除対象配偶者」となり、控除額がさらに上がります。【④繰り下げ受給を検討するなら「全体試算」が必須】健康状態が良好で、当面は貯蓄で生活できるBさん夫妻の場合、夫の老齢厚生年金を数年繰り下げることで年金額を増やせる可能性があります。ただし年金額が増えると、医療保険・介護保険の自己負担や保険料が上がるケースもあります。「増えるから得」と単純には言えないので、全体を試算した上での判断が大切となります。【まとめると…】退職後は収入構造が大きく変わります。税金・保険料・年金のすべてを「退職後の新しい前提」で見直すことが大切。特に「自動適用されるもの」と「申請しないともらえないもの」の区別を把握しておきましょう。■ケース③「ひとり暮らしのCさん(72歳・元自営業)」状況:夫と死別して15年。国民年金のみで年間80万円程度。貯蓄を取り崩しながら生活。最近、膝の痛みが悪化し通院が増えてきた。【①寡婦控除を毎年申告する】夫と死別後、再婚していないCさんは「寡婦控除」の対象になる可能性があります。合計所得が500万円以下であれば適用でき、所得税で27万円、住民税で26万円が控除されます。毎年の確定申告(または住民税申告)で申告が必要です。【②自己負担割合が本当に正しいか確認する】72歳のCさんは75歳未満のため、現在は国民健康保険に加入中。70歳以上75歳未満の方は所得に応じて自己負担割合が2割または3割になりますが、「基準収入額適用申請」が必要なケースもあります。確認せずに3割を払い続けていた方も少なくありません。【③通院交通費も含めて医療費控除を申告する】膝の治療で年間医療費が10万円を超えるようであれば、確定申告で医療費控除が使えます。公共交通機関を使った通院交通費(領収書が不要のものも含む)も対象です。通院が多い方は、日々の記録がそのまま還付につながります。【④寡婦控除で「非課税世帯」になれる可能性を確認】年金収入80万円のCさんは、寡婦控除を申告することで住民税が非課税になる可能性があります。非課税世帯になると、医療費の自己負担上限が下がり、介護保険サービスの費用も軽減されます。このような「控除→非課税→軽減」という連鎖を、ぜひ確認してみてください。■「今すぐできること」3つのアクション【アクション1:ねんきん定期便と源泉徴収票を見直す】手元の書類を確認するところから。「思ったより多く引かれている」と感じたら、使えていない控除がある可能性があります【アクション2:申告できる控除を確認する】障害者控除・寡婦控除・医療費控除・扶養控除——「自分には関係ない」と思い込まず、専門家に確認してもらうだけで数万〜数十万円の還付になることも。還付申告は過去5年さかのぼれます。【アクション3:まずは「無料相談」を活用する】介護・医療・税金・年金は、それぞれを別々に考えるのではなく、横断的に把握することが大切です。市区町村の窓口、地域包括支援センター、税務署の無料相談、そして相続・不動産・介護を総合的に見られる専門家への相談を、ぜひ一度ご活用ください。「公的支出適正診断」という無料サービスもあります。このサービスでは、自分では気づきにくい軽減措置や還付の可能性を専門家にチェックしてもらうことができます。「知らなかった」が「知っていた」に変わるだけで、老後のお金の使い方は大きく変わります。■シリーズ総括:制度は「知っている人だけが得をする」全4回を振り返ると、一つの共通点が浮かび上がります。それは、介護保険の軽減制度も、高額療養費も、障害者控除も、扶養控除も——どの制度も「申請しなければ受けられない」という現実です。市区町村の窓口は親切ですが、「あなたはこの制度が使えますよ」と自ら教えてくれることは多くありません。相続・不動産コンサルタントとして多くのご家族と関わってきた中で感じるのは、「財産を守ること」と「生きている間のお金を賢く使うこと」は、切り離して考えられないということです。介護費用・医療費・税金の知識が、結果として相続できる財産にも影響してきます。「もっと早く知っていれば…」という言葉を、これ以上聞かずに済むように。このシリーズが、そのきっかけの一つになれれば、とても嬉しいです。全4回にわたってお伝えしてきた介護・医療・年金・税金の制度。複雑なうえに毎年改正が続き、全部を把握しようとするのはプロでも大変なことです。大切なのは「全部覚えること」ではなく、このシリーズで「こんな制度があるらしい」と知っていただけたこと、そして必要なときに相談できる人・場所をもっておくこと。頼れる専門家は、思っているよりずっと身近にいます。一人で抱え込まず、周囲をどんどん頼ってください。それが、老後のお金を守る一番の近道です。