こんにちは。相続・不動産コンサルタントの渡邉卓哉です。「年金はいつから、いくらもらえるの?」「繰り下げたほうが得なの?それとも損?」「税金や保険料が引かれて、手取りが思ったより少ない…」前回は介護保険・医療保険のしくみと、自己負担を減らすための制度についてお伝えしました。今回のテーマは「年金と税金」です。受け取り方や税金との関係を正しく理解しておくだけで、手元に残るお金が大きく変わります。多くのご相談を受ける中で、「年金のことはよく分からないまま65歳を迎えてしまった」「控除が使えると知らず、長年多く税金を払い続けていた」という声を何度も聞いてきました。このシリーズの第3回では、そういった「知らないと損する」ポイントを中心に、分かりやすく整理していきます。■公的年金のしくみ、まず全体像を押さえよう【年金は「2階建て」になっています】日本の公的年金は2つの層から成り立っています。20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金(基礎年金)」が1階部分、会社員や公務員が加入する「厚生年金」が2階部分です。会社員として働いてきた方は、65歳になると国民年金と厚生年金の両方を受け取れます。自営業やフリーランスの方は国民年金のみとなるため、受け取れる年金額に差が出ることがあります。将来の受給額は、毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」やインターネットの「ねんきんネット」で確認できます。ぜひ一度チェックしてみてください。【年金を受け取るには「10年」の加入が必要】老齢基礎年金を受け取るには、保険料を納めた期間や免除された期間を合算して、10年以上の受給資格期間が必要です(2017年以前は25年でした)。学生時代の未納期間がある方は、一度ご自身の記録を確認してみましょう。なお、保険料を未納のまま放置すると、万一の事故や病気で障害状態になった場合の「障害年金」が受け取れなくなる可能性もあります。過去の未納期間は後から「追納」できる場合もあるため、気になる方は年金事務所に相談してみてください。【遺族年金は「残された家族」を守る制度】年金には老齢年金だけでなく、一家の生計を担っていた方が亡くなったときに遺族が受け取れる「遺族年金」もあります。遺族基礎年金は子のある配偶者や子が対象、遺族厚生年金は受給要件を満たした遺族が受け取ることができます。相続相談の現場では、配偶者を亡くされた後に「遺族年金がもらえることを知らなかった」という方に出会うことがあります。受け取れる権利があっても、申請しなければ支給されません。受給要件や手続きについて、早めに確認しておくことが大切です。■「いつから受け取るか」で総額が大きく変わる【繰り下げ・繰り上げ、どちらが得?】老齢年金の受け取り開始は原則65歳ですが、66〜75歳まで遅らせる「繰り下げ受給」と、60〜64歳に前倒しする「繰り上げ受給」が選べます。≪繰り下げ受給(66〜75歳)≫1か月ごとに0.7%増額。75歳まで繰り下げると最大84%増になります。≪繰り上げ受給(60〜64歳)≫1か月ごとに0.4%減額。最大24%少なくなり、この減額は生涯続きます。どちらが得かは、健康状態や家計の状況、平均余命などによって異なります。一般的には、長生きするほど繰り下げのメリットが大きくなりますが、注意点もあります。繰り下げによって年金額が増えると、所得税や住民税、医療保険・介護保険の自己負担額や保険料が増えるケースがあるため、単純に「増えるから得」とは言い切れません。ご自身の状況に合わせて、専門家に相談しながら判断することをおすすめします。【働きながら受け取る「在職老齢年金」に気をつけて】65歳以降も働きながら厚生年金を受け取っている方は、収入と年金の合計が一定額(2026年4月からは月65万円)を超えると、年金の一部または全額が支給停止になります。これを「在職老齢年金」といいます。働き方や収入次第で年金の手取り額が変わるため、定年後の就労を検討する際にはこの制度を頭に入れておきましょう。■年金と税金の関係、見落としがちなポイント【年金も「収入」として課税されます】年金収入は税法上「雑所得」として扱われ、所得税・住民税の課税対象になります。ただし、「公的年金等控除」が差し引かれるため、全額が課税されるわけではありません。≪計算のイメージ(65歳以上・年金収入330万円以下の場合)≫年金収入 − 公的年金等控除(110万円)= 雑所得雑所得 − 基礎控除などの所得控除 = 課税所得課税所得 × 税率 = 納める税額※たとえば65歳以上で年金収入が330万円以下の場合、公的年金等控除額は110万円となります。つまり、年金収入から110万円を引いた金額が「雑所得」として扱われ、さらにそこから基礎控除などの所得控除を引いた残りに税率がかかる仕組みです。なお、遺族年金や障害年金は非課税です。課税対象となるのは老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)です。この違いを知っておくだけで、税金の計算や制度の活用方法が変わってきます。【所得控除を使いこなすことが節税の第一歩】税金は「収入から各種控除を引いた課税所得」に税率をかけて計算されます。控除を多く使えるほど、税負担が軽くなります。シニア世代が特に知っておきたい控除を3つご紹介します。≪障害者控除≫身体障害者手帳をお持ちの方だけでなく、要介護認定を受けている65歳以上の方も、市区町村から「障害者控除対象者認定書」を取得すれば適用できます。所得税で27万円(特別障害者は40万円)の控除が受けられます。知らずに申告していない方が非常に多い制度です。≪医療費控除≫1年間の医療費合計が10万円(総所得200万円未満の方は所得の5%)を超えると使えます。訪問看護・リハビリなど一部の介護保険サービスや、医師が必要と認めたおむつ代も対象です。領収書は必ず保管しておきましょう。≪扶養控除≫離れて暮らす親御さんへの仕送りをしている場合にも適用できることがあります。親御さんの年間合計所得が58万円以下(給与収入のみなら123万円以下)であれば、扶養控除の対象となります。同居していなくても仕送りの実態があれば認められますので、ぜひ確認してみてください。【「非課税世帯」になると、軽減が連動して広がる】住民税が非課税になると、介護保険料や医療費の自己負担が大幅に軽減されるなど、様々な制度と連動しています。住民税が非課税かどうかは、前年の所得や扶養の状況によって判断されます。たとえば、障害者控除や寡婦控除・ひとり親控除が適用されることで課税所得が下がり、住民税非課税世帯の認定を受けられるケースがあります。税制上の控除が介護・医療の負担軽減にもつながるという「制度の連鎖」を理解しておくことが、賢いお金の管理につながります。■2025年税制改正で何が変わったか【基礎控除・給与所得控除が引き上げられました】2025年の税制改正により、所得税の基礎控除が最大95万円(合計所得2,400万円以下の場合)に引き上げられました。また、扶養控除・配偶者控除の対象となる所得要件も、合計所得48万円以下から58万円以下(給与収入のみなら103万円から123万円以下)に改正されています。離れて暮らす親御さんが「扶養に入れるかどうか」を判断する際の基準が変わっていますので、過去の情報をそのまま使ってしまわないよう注意が必要です。【確定申告で「払い過ぎた税金」が戻ってくることも】会社員や年金受給者の方は、給与や年金から自動的に税金が差し引かれています(源泉徴収)。しかし、医療費控除や障害者控除などの所得控除を申告していない場合、本来より多く税金を払っている可能性があります。確定申告(還付申告)を行うことで、過去5年以内の払い過ぎた税金を取り戻すことができます。「確定申告は難しそう」と敬遠している方も多いのですが、税務署の無料相談窓口や、税理士への相談を活用すれば、思いのほかスムーズに進みます。「どうせ大した金額にならないだろう」と思っていても、実際に計算してみると数万円〜十数万円の還付になるケースも珍しくありません。■制度は変わり続けます。だから、一人で抱え込まないでください。今回の年金・税金のしくみも、前回お伝えした介護保険・医療保険の制度も、どんどん改正が行われています。「去年まで使えた控除が変わっていた」「申請の基準が引き上げられていた」ということは、珍しいことではありません。だからこそ、「全部自分で把握しなければ」と思い詰めなくて大丈夫です。大切なのは、「こういう制度があるらしい」と知っていて、必要なときに相談できる人・場所をもっておくこと。市区町村の窓口、地域包括支援センター、ケアマネジャー、税務署の無料相談、税理士——頼れる専門家は、思っているよりずっと身近にいます。制度の変化についていくのは、プロでも大変なことです。一人で悩まず、周囲をどんどん頼ってください。それが、老後のお金を守る一番の近道です。次回の最終回(第4部)では、「今からできる介護・医療・節税対策」として、これまでお伝えしてきた制度をどう組み合わせて活用するか、ぜひ続けてご覧ください。